自由と成長の経済学(柿埜真吾)

本当にこのままで良いのか

資本主義、民主主義、経済成長は、本当にこのまま進めて良いのでしょうか。

時々、そういう声が聞こえてきます。

新型コロナウイルス対策では

2019年12月、中国より始まった新型コロナウイルス感染症が世界を襲うと、資本主義や、自由市場経済の終焉を謳う論調が蔓延するようになりました。

社会主義体制を敷いている国々の方が、トップダウンで都市封鎖を実行することが可能で、感染症対策としては、民主主義体制のそれよりは有利であるといった空気が流れていました。

人新世の資本論(斎藤幸平)が大流行

2021年新書大賞1位が斎藤幸平の書いた「人新世の資本論」です。

脱成長に舵を切らなければ、温暖化で人類が滅亡する、と警告します。

ヒントはマルクスの思想の中に眠っていた、として、資本主義、経済成長を批判しています。

脱成長コミュニズム

2019年に16歳のスウェーデンの環境活動家のグレタさんはこのように仰りました。

気候変動により多くの人が苦しんでいます。多くの人が死んでいます。私たちは大量絶滅の始まりにいます。それなのに、あなたたちが話しているのは、お金のことと、経済成長がいつまでも続くというおとぎ話ばかり、恥ずかしくないんでしょうか。

地球温暖化を止めるためにはゼロ成長が必要だ、これが、脱成長コミュニズムです。

これも、資本主義、経済成長を批判しています。

だが、ちょっと待って欲しい

「自由と成長の経済学(柿埜真吾)」では上記の主張について、データを使って、真っ向から反論しています。

資本主義のおかげで、感染症の死亡者数は激減した。

資本主義こそ、地球環境にやさしい。

資本主義のもとで、「自由」「人権」を手に入れることができた。

人類は感染症に敗北しつつあるのではなく、勝利を手にしつつある

人類を長く苦しめてきた天然痘は1979年にはついに撲滅された。

かつては、世界で猛威を振るっていたポリオも1988年の35万件から、2018年の33件へと99%も減少し、制圧が目前に迫っている。

感染症・周産期異常・栄養失調による死者数は1990年から2019年までに1599万人から1019万人へと580万人も減少し、年齢調整済み死亡率は半分以下に低下している。

気象関連災害の死者数は経済成長とともに減少している

かつて、人類は自然と調和した素晴らしい生活をしていた。

現在は、資本主義と経済成長によって自然を破壊して、自然に復讐されようとしている。

だが、ちょっと待って欲しい、事実を見てみましょう。

20世紀以降の世界全体の気象関連災害による死亡者数は、2010年代が最も少なくなっている。

死亡率は1920年代から、なんと99%も減少している。

ついに、人類は貧困を克服しようとしている

私たちは人類史上最大の革命に立ち会っている、と筆者は述べます。

1820年代の人類は人口の約9割が絶対的貧困の下で暮らしていた。

乳児死亡率が極めて高く、得体のしれない疫病や飢饉に苦しめられ、平均寿命は30歳前後に過ぎなかった。

現在は、絶対的貧困の下で暮らす人類は1割にも満たず、平均寿命は72歳を超えている。

貧困を撲滅したのは18世紀末の西欧諸国で始まった持続的な経済成長という新しい現象のおかげである。

人類が自由を手にしたのは、ごく最近のこと

本書「自由と成長の経済学(柿埜真吾)」を読んで最も感銘を受けたのが、この一節です。

多かれ少なかれ、政府は人々の強い支持を受けながら、近代にいたるまで自由市場の発展を妨害し、競争を妨げる規制を導入し続けたが、それに疑問を持った人は知識人も含めてほとんどいなかった。言ってみれば、有史以来、人類は最近になるまで脱成長コミュニストにずっと支配されてきたのである。彼らの教えから離れて、独り立ちした人類が自由市場を発見したのはごく最近のことに過ぎない。

そして、それは共通の認識であると。

現代の有力な経済史家は、近代の経済がこれまで想像もしなかったような奇跡の経済成長を遂げたのは、人類が資本主義というシステムを採用した結果であると考えることで一致している。

人類はちょっと最近まで、支配する側も、支配される側も、資本主義を望んでいなかった。

そこに疑問を挟む人もほとんどいなかった。

でも、今はもう違う。

人類は、資本主義によって、自由と、人権と、民主主義を手に入れることが出来た。

そしてそれは、わずか100年かそこらの出来事であると。

資本主義の原理

市場経済の基本となる、【プラスサムゲーム】と【ゼロサムゲーム】の違いも知れて良かったです。

【プラスサムゲーム】

自発的な取引は必ず当事者双方に利益をもたらす。もしそうでなければ、わざわざ自分の損になる取引をしたりはしないだろう。自発的な取引は、誰かが得をすれば誰かが損をするゼロサムゲームではなく、当事者全員が利益を得ることが出来る。この単純な発想こそ市場経済の基本となる原理であり、アダム・スミスの洞察の核心というべきものである。

【ゼロサムゲーム】

資本主義に反発する人の多くは、誰かの儲けは別の誰かの損であり、企業の得は労働者の損であると考えている。貿易は国同士の競争であり、貿易赤字は〝稼ぐ力〟が衰えている証拠だとか、先進国は途上国を搾取して豊かになるとか、資本主義は他人を押しのけて自分だけが豊かになろうとする冷酷な競争社会だといった主張。

何度でも読みたい

経済成長を自由を選ぶのか、脱成長と全体主義を選ぶのか。

どちらの道を選ぶのかは、明らかだろう、と筆者は述べます。

激しく同意です。

マルクス主義がゾンビのように復活する度に、私はこの本を読んで正気を取り戻したいと思いました。